2024年4月施行・動物病院の広告(獣医療広告)制限の改正(見直し)について弁護士が解説

動物病院イメージ写真

2024年4月1日、動物病院の広告に関するルールが大幅に変更されました。

これまで厳しく制限されていた診療内容の広告が、一定の条件下で認められるようになった一方で、比較広告や誇大広告の禁止といった制限は引き続き適用されます。

本記事では、改正の背景やポイントを分かりやすく解説し、動物病院や関連事業者が注意すべき点を整理します。

動物病院の広告(獣医療広告)の制限とは

動物病院の広告は、獣医療法に基づいて規制されています。広告に該当するかどうかは、以下の3つの要件を満たしているかどうかで判断されます。

  1. 誘引性:来院を促す意図があること。
  2. 特定性:病院名や獣医師名が明示されていること。
  3. 認知性:不特定多数が認識できる状態にあること。

これらをすべて満たす場合、「広告」とみなされ、規制の対象となります。動物病院のホームページやSNS投稿も場合によっては広告と判断されるため、慎重な運用が求められます。

広告制限見直しの要点

今回の改正では、以下のような変更が行われました。

1. 診療内容の広告が一部解禁

一定の条件を満たせば、診療内容を広告に掲載可能となりました。

2. ホームページの取り扱いが明確化

動物病院の公式サイトは原則として広告に該当しませんが、リスティング広告やチラシのQRコードから誘導する場合は広告とみなされます。

3. SNSの運用に関する規制強化

FacebookやX(旧Twitter)などの交流系SNSでの病院紹介は、広告と判断される可能性が高いです。

これらの変更により、動物病院の広告の自由度が増した一方で、正しい情報提供が求められるようになりました。

広告が可能な事項

今回の改正により、以下の内容については広告が認められています。広告を出す際は、正確な情報を提供し、誇張表現を避けることが求められます。

病院の基本情報

病院の名称、住所、電話番号、診療時間、休診日、予約診療の有無といった基本情報は、広告に記載することが可能です。飼育者が適切な診療を受けるために必要な情報であるため、特に制限なく掲載できます。

獣医師の氏名・資格・経歴(一定の条件あり)

獣医師の氏名や資格、経歴についても広告が可能ですが、以下に注意する必要があります。

1. 正式な学位・称号を使用すること

獣医学の学位や博士号を広告する際は、正式な表記を用いる必要があります。例えば、「博士(獣医学)○○大学」と明確に記載しなければなりません。

2. 農林水産大臣が指定した団体の専門医・認定医のみ広告可能

専門医や認定医を名乗る場合、その資格が農林水産大臣に指定されている団体による認定であることが条件となります。独自の認定資格や、認知度の低い団体の資格は広告できません。

3. 卒業大学や勤務先の経歴は記載可(ただし、過去の診療実績はNG)

獣医師がどの大学を卒業し、どの病院で勤務してきたかについては広告できますが、過去の診療実績(例:「これまで○○件以上の手術を成功させました」など)は広告不可とされています。診療の質を保証するものではなく、誇大広告につながるおそれがあるためです。

4. 海外の資格・研修履歴は広告できない

日本国内での資格や認定のみ広告可能であり、海外で取得した資格や研修履歴は広告の対象外です。飼育者が適切な情報を判断できるよう、日本国内の基準に統一する目的があります。

5. SNSやブログでも広告とみなされる可能性があるため注意

獣医師個人のSNSやブログに、診療内容や資格を記載する場合でも、広告とみなされることがあります。不特定多数が閲覧できるプラットフォームでは、広告ルールを遵守する必要があります。

専門分野

動物病院が診療する専門分野(例:内科、外科、皮膚科など)は広告できます。ただし、過度に強調した表現や比較広告は禁止されています。

保有する医療機器

MRIやCTスキャンなどの医療機器を保有していることを広告することも可能です。ただし、「最新機器を導入し、他院よりも精度の高い診断ができます」といった比較優良広告は禁止されているため、注意が必要です。

特定の診療内容

避妊・去勢手術、予防接種などの特定の診療内容は、広告が可能です。ただし、以下の情報を併記することが条件となります。

1. リスクや副作用についての説明

手術や治療に伴うリスクや副作用を明記する必要があります。例えば、「手術後に一時的な痛みや腫れが生じることがあります」などの記載が求められます。

2. 費用についての明記

診療費用については、範囲を示す形で記載が必要です(例:「手術費用は○○円から○○円」)。ただし、「今だけ特別価格」「地域最安値」といった強調表現は禁止されています。

ペットホテルやしつけ教室の運営情報

動物病院がペットホテルやしつけ教室を運営している場合、その情報を広告することが可能です。ただし、これらのサービスが動物病院の診療と関連していることを明確にする必要があります。

広告を作成する際は、これらのルールを守り、正確で適切な情報を提供することが求められます。誇張や不適切な表現を避けることで、飼育者が安心して診療を選択できる環境を整えることが重要です。

広告ができない事項

一方で、以下の内容は引き続き広告禁止事項に該当します。これらのルールを守らないと、誤解を招いたり、動物医療の信頼を損なう恐れがあるため、十分な注意が必要です。

比較広告:「地域No.1」「他院より優れた治療」など

「他の病院より優れている」「最新の技術で最も安全」といった、他院と比較して自院が優良であることを示す広告は禁止されています。仮に事実であっても、根拠のない優越性を強調することは、利用者の誤解を招くため、認められません。

誇大広告:「絶対に治る」「100%成功」など

「副作用なし」「どんな病気も対応可能」といった、事実を誇張したり、実際以上に見せる表現は禁止されています。動物の症状や治療効果には個体差があるため、過度な期待を抱かせる広告は認められません。

体験談の掲載:「うちのペットはこの病院で元気になりました」などの口コミ

飼い主が自発的に投稿する口コミは広告に該当しませんが、動物病院が治療の効果に関する飼い主の体験談を引用したり、投稿を依頼したりすることは広告とみなされ、禁止されています。治療の効果には個体差があり、特定の体験談を広告として使用すると、誤解を招く可能性があるためです。

一方で、診療内容や治療結果に直接関係のない情報であれば、体験談として掲載することが可能です。例えば、「受付スタッフの対応が丁寧だった」「待合室が清潔で快適だった」といった病院の雰囲気やサービスに関する口コミは問題ありません。

費用の強調:「期間限定○○%オフ」「今なら初診無料」などの割引広告

「キャンペーン価格」「期間限定割引」「初診無料」といった、費用を前面に押し出した広告は禁止されています。特に、割引や特典を強調することで、価格競争が過熱し、獣医療の質が低下するリスクがあるため、慎重な運用が求められます。

未承認の治療法や医薬品の宣伝

法律で承認されていない医薬品や、正式に認可を受けていない治療法を広告に掲載することはできません。たとえば、「動物用として未承認の漢方薬を使用する治療」や「適用外の医薬品を用いた診療」などは、安全性や有効性が確立されていないため、広告として掲載することが禁止されています。

動物病院のホームページ運用について

動物病院のホームページは、基本的に「広告」には該当しません。飼い主が自ら検索し、情報を得ることを目的として閲覧するため、病院側が誘導しているわけではないと判断されるためです。

しかし、以下のようなケースでは、広告とみなされ、広告ルールを遵守する必要があります。

リスティング広告を利用している場合

Google広告やYahoo!広告などのリスティング広告を利用していると、検索結果の上位に病院のホームページが表示されます。この場合、病院側が積極的に来院を促しているとみなされ、広告規制の対象になります。

チラシやパンフレットのQRコードから誘導する場合

病院の宣伝用チラシやパンフレットにQRコードを掲載し、ホームページへ誘導する場合も、広告と判断される可能性があります。これは、病院側が意図的に来院を促しているとみなされるためです。

SNSで宣伝目的の投稿を行う場合

FacebookやX(旧Twitter)、Instagramなどで「当院では最新の治療を提供しています」などの宣伝投稿を行うと、広告として扱われることがあります。特に、リスティング広告やQRコードと併用すると、広告規制の対象となる可能性が高くなります。

ホームページを運用する際は、これらのポイントを踏まえ、広告とみなされる場合は適切なルールを守った情報発信を行うことが重要です。

動物病院の広告(獣医療広告)制限でペットショップが気を付けること

ペットショップやホームセンターが提携する動物病院を紹介する際も、広告規制の対象となる場合があります。動物病院の広告に該当すると、ペットショップ側も規制の影響を受けるため、以下の点に注意が必要です。

積極的な勧誘は禁止

「当店提携の病院で診察を受けてください」といった誘導は、広告に該当する可能性があります。病院への来院を促すような言い回しは控え、あくまで情報提供の範囲にとどめることが重要です。

広告可能な内容のみ掲載

ペットショップの店内やホームページで動物病院の情報を紹介する際は、「診療内容」「連絡先」「診療時間」といった広告可能な範囲に限定する必要があります。 病院の治療効果や技術力などについて言及するのは避けましょう。

体験談の掲載は禁止

「この病院で診察を受けたら、ペットの症状がすぐに改善しました!」といった顧客の体験談を店舗で掲示したり、SNSで拡散することは禁止されています。 治療の効果は個体差があるため、誤解を招くおそれがあるためです。

ペット関連事業者も、獣医療広告のルールを理解し、適切な情報提供を行うことが求められます。

まとめ

今回の法改正により、動物病院の広告ルールが見直され、診療内容の広告が一部解禁されました。しかし、誇大広告や比較広告、費用の強調表現などは禁止事項が維持されており、適切な情報提供が求められます。

また、体験談の使用や未承認医薬品の宣伝も厳しく制限され、SNSやホームページの運用にも注意が必要です。特に、リスティング広告やQRコードを利用した誘導は広告とみなされる可能性があるため、慎重な対応が求められます。

動物病院だけでなく、ペットショップや関連事業者も広告ルールを理解し、正しい情報発信を心がけることが大切です。適切な広告運用を行い、動物医療の信頼を守ることが重要となるでしょう。

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