Q:職場で上司からパワハラを受けています。慰謝料を請求したいのですができますか?いくら請求できるのでしょうか?
A:パワハラに当たるかどうかの判断は、実は簡単ではありません。
パワハラを受けていると思っていても、慰謝料請求が認められないこともよくあります。日本の裁判所では、認定される慰謝料額は低めの傾向にあります。特に、暴行や傷害以外の場合では、10万円〜20万円、それ以下のことも多いです。しかも、パワハラは密室・突発的に行われることも多いため、類型的に証拠が少ないという特徴もあります。パワハラで相手方や会社に対して責任追及していくのは、簡単なことではなく、依頼者も一定の覚悟が必要です。
当事務所でも、最近多い相談類型の1つがハラスメント(セクハラ・パワハラ等)になります。
会社員の方からの相談が多く、上司や会社の対応に不満を抱えている方が多いようです。
今回は、ハラスメントの中でも特に相談が多い、パワーハラスメント、いわゆるパワハラに焦点を当てて解説していきます。
1 パワハラに当たるかの判断はどのように行うのか
パワハラに当たるかどうかの判断は簡単ではありません。暴力があるケースや業務とは無関係に侮辱的な発言をするケースはパワハラに当たる可能性が高く判断もしやすいですが、暴言等の暴力や傷害ではないパワハラは業務上の適正な指導との線引きが難しく、弁護士でも「これはパワハラ、これはパワハラではない」と画一的に判断することが困難な場合も多いです。
パワハラの定義は、労働施策総合推進法30条の2第1項に記載されています。
つまり、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素を全てみたすものがパワハラに当たるというのです。
この定義だけでは、どのような場合がパワハラに当たるのかはよくわかりません。
パワハラに該当するかどうかの1つの指標になるのが、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が、平成24年1月30日に取りまとめた報告の6つの行為類型が参考になります。
- ① 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- ② 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
- ③ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- ④ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
- ⑤ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること・仕事を与えないこと)
- ⑥ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
上記の①から③は、業務上必要な場合というものが想定しにくいため、パワハラに該当することは明らかな場合が多いでしょう(もっとも、特に③の類型は証拠による証明が難しい場合が多いという特徴があります)。
判断が難しいのは④から⑥の類型でしょう。業務上の必要性や相当性についての判断が必要になるからです。
そしてさらに、この業務上の必要性や相当性というものは「社会通念」というものに基づいて判断されます。
これがパワハラに当たるかの判断をややこしくしている理由になります。
つまり、「社会通念」それ自体人によって考え方が異なるから、パワハラに当たるかの判断も難しくなるのです。パワハラに当たるかは裁判官によっても判断が分かれる場合があります。
そのため、我々弁護士は、裁判例の集積から、裁判官ならどのように判断するかを考えながら、パワハラに当たるかどうかの判断をしていくのです。
よくインターネットでは、このような場合はパワハラに当たりますといったような記載がありますが、そのように紋切り型の判断ができるものではなく、裁判等における実際の判断はより緻密になされるということを知っておく必要があります。
2 パワハラ被害の救済方法
パワハラ被害を受けた時はどのような手段による救済が可能なのでしょうか。
主に以下の2つの手段があります。
- ① 労働関係法に基づいて会社に対して必要な措置を求める
→必要な措置をとらない等の法違反がある場合に労働局に対し指導やあっせん等を求める。 - ② 会社や加害者に対して、債務不履行責任(安全配慮義務違反や職場環境配慮義務違反)や不法行為責任の追及をする。
パワハラ救済のためにどの手段をとるべきかは非常に専門的な問題であり、法律の専門家ではない方が決めるのは困難を極めます。
そのため、パワハラの救済方法については法律の専門家である弁護士に助言を求めるのが良いと思います。
3 パワハラの慰謝料の相場感
パワハラを受け慰謝料請求をしたいと考えている方にとって最も関心がある事項が慰謝料の額だと思います。
そして、相談者の認識と弁護士の認識との間に最も乖離がある部分がパワハラの慰謝料なのです。
厳しいことを言っているかもしれませんが、日本の裁判所においてパワハラの慰謝料は高額にはなりにくい傾向があります。
もちろん、事案によって異なりますが、暴行・傷害などの刑事事件にも相当するような悪質性の高い事案においては、100万円超の慰謝料が認められることがありますが、暴言等にとどまるような場合には、裁判所にパワハラが認定されても慰謝料額が10万円から20万円、それ以下になることも多いです。
そうすると、弁護士費用が加害者から回収する金額を上回ってしまう可能性もあります。
費用面がネックになっている場合には、上述した労働局のあっせんや調停の制度の利用を考えてもよいかもしれません。労働局で労働相談をしてみることをお勧めします。
4 証拠の集め方
パワハラを受けた場合、周りの社員が見ていたから証拠がある、パワハラを受けたのであるから請求をできて当然と思われるかもしれません。
しかし、見ていた人がいるからと言ってその人が証言をしてくれるとは限りません。
パワハラの案件も他の案件同様に客観的証拠がとても重要になってきます。
パワハラ案件で重要な客観的証拠の例は、パワハラの存在がわかるような録音、電子メール、SNSやLINEのやりとり、通院記録等になります。
パワハラを受け、会社や加害者に対しての責任追及を考えている場合には、これらの客観的証拠があるかどうかが1つのポイントになります。
5 最後に
解説は以上になりますが、私はパワハラの責任追求をしていくにはそれなりの弁護士費用等が必要になりますし、パワハラの責任追及は決して簡単なものではないため、依頼者にもパワハラと闘っていくには一定の覚悟が必要だと思います。
パワハラは決して許されるべきものではありません。当事務所では、パワハラを受けた方にとって最良の選択ができるよう全力でサポートいたしますので、パワハラ被害に遭われた方は一度ご相談いただければ幸いです。
以下に、パワハラ事件における当事務所の弁護士費用の目安を掲載しておきます。
【パワハラ事件における弁護士費用の目安(税込)】
着手金 | 22万円〜 |
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追加着手金(裁判手続き移行時) | 33万円〜 |
報酬金 | 経済的利益の17.6パーセントの金額 |
※事務手数料として一律1万1000円を頂戴しております。